◆ ワールドカップからも見える日本の病理 ~特攻兵は2度殺される~
ワールドカップ2014ブラジル大会が終了した。大会をめぐる日本のマスコミの論調に、現在の日本の深い病理を見る思いがした。
まず、予選リーグ初戦のコートジボアールとのゲーム、新聞は「まさかの敗戦」と見出しをつけたところまで。でもランキングから見れば負けて何の不思議もないはず。
予選リーグを突破できなかったことにも、意外とする声ばかりだが、そもそもサッカーに興味ある人なら、予選突破の可能性はせいぜい3分の1。直前の親善試合が好調だったにせよ、高くて40%というのがせいぜいのはずだ。
ま、幻想を作り出しておいて幻滅させ、また新しい幻想を再生産するというのが、資本主義のいつものやり方だけれど、それにコロリとやられるのが日本人らしい。
ベスト16が揃ってからこそホントのワールドカップのはずだが、多くの日本人はすでに興味を失って「まだやってるの」状態。NHKの中継の度に、あの椎名林檎までNHKにそそのかされて作ったという日本応援歌が虚しく流れているという状況になってしまった。
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ま、ナショナリズムはサッカーまでにしておくべきだから、多少の幻想を抱くのも仕方ないとはいえ、あまりに日本国内にしか通用しない論調ばかりが溢れていて、誰も世界の常識を語れないというのは問題ではないか。
それは政治、社会状況にこそ表れている。例えば靖国神社参拝。首相だけでなく、国会議員が集団で参拝する。これらは政教分離という近代の最低限の論理に違反していることは明白である。
まして靖国には、戦死もせず、国民が戦死、餓死しているなか敗戦まで美食、美酒三昧だった戦争指導者まで祭られている。社会的正義に反することこのうえないではないか。
参拝をよしとする意味は、とても日本以外のまともな国で通用するわけがない、通用するのはまともではない国で、北朝鮮と中国がそうだ。
待ってくれ、その2つの国は最も靖国参拝を批判している国ではないか、と言うかもしれない。いやその2つの国こそ、どんな理由であれ、国のために殺人をし自ら死んでいく国民を作りたがってるのだ。国家悪という点では同類でしかない。
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日本国内でしか通じないトンデモない論理といえば、「特攻記念館」を世界遺産にという運動が典型ではないか。これを世界に類を見ない、はなはだしい人権無視の記録として世界遺産にというのなら理解できる。
ところが彼らの論理は、特攻を「純粋な若者の行為」だと言うのだ。こうして特攻の若者たちは、特攻の強制とそれを純粋とされることで2度殺されることになる。
純粋な人は戦争に抵抗した人だ。そんな人たちは拷問や前線に送られて殺された。抵抗する勇気のない多くの人たちは、戦争に駆り出されても、せめて人を殺すまいとして、武勲なんか立てずに死んでいったのだ。
彼らに魂があるとすれば、それは靖国なんかではなくて、父母や妻子のいる故郷の町や村の小さな森に帰っているに違いない。
特攻の若者を2度殺すな!
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◆ 映画「ハンナ・アーレント」は一見の価値あり
映画「ハンナ・アーレント」
■彼女はナツィに抵抗するだけでなく、その発生根拠を「イェルサレムのアイヒマン」によって、平凡な人間に求めたことで、ユダヤ同朋からもパッシングを受ける。
しかし、彼女はナツィに抵抗するのと同じ理由で、シオニズム(ユダヤ人の国家建設運動)にも反対する。アメリカへの幻想はこの映画でも語られているが、それはもちろん幻滅に至るのだ。それを描いていないところはこの映画の限界だろう。
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◆ 「アトミック・ボックス」は一読の価値あり
「アトミック・ボックス」
池澤夏樹著
(毎日新聞社)
本体価格 1995円
■毎日新聞に連載されていた池澤夏樹の小説が単行本になった。国家権力はなんでもすることが、村上水軍など脱国家の歴史のある瀬戸内を舞台に描かれる。
国家と個人の対決はスリリング、結末を「甘い」と感じる人もいるだろうが。原発開発の隠された秘密が何なのか、連載中愛読していた私には想像がつかなかった。その想像力を含め池澤は信頼できる作家だ。
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